マレーシア学生の理工学分野の出前講義の想いで

文・写真:小川 編集:篠﨑春彦

1.はじめに

マレーシア高等教育プログラムの派遣教員として、2000年から2003年までの4年間毎年お盆休み前後の2週間マレーシア学生に出前講義を行いました。講義する場所はマレーシア、クワラルンプール郊外にあるYPMバンギカレッジです。筆者は、制御工学を専門とし、大学(東京電機大学)現役時代は電子工学、制御工学、ロボット工学などの講義を担当していた関係で、受け持つ授業科目は電気・電子工学概論でした。この科目以外に機械工学概論(慶應義塾大学)、情報工学概論(東京工科大学)、化学材料工学(近畿大学)、創成科目(芝浦工業大学)などが同時開講されました。各講義は担当教員以外にそれぞれの教員が指導中の大学院生チューターが各教員に一人同伴しました。また、費用自腹なら夫婦同伴も可能ということで、筆者ともう一人の教員が同伴でマレーシアに2週間滞在しました。

本稿は2001年に行った出前講義記録、日記、写真が最近見つかったため、主にこの年に行ったマレーシア出前講義と当時見聞した興味深い想いでついて述べます。

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クアラルンプール市内のツインタワー、KLタワー、街の道路交通状況

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ホテルからキャンパスまの送迎車と教員

2.学生と講義

言葉の障害があるため、講義はゆっくり話すように心がけました。講義内容は、直流・交流理論、ダイオード・トランジスタなど半導体とその応用、アナログ技術とオペアンプ、センサと制御技術、デジタル技術など短期間の割には盛りだくさんの講義を行いました。日本語を書くことに不慣れな学生達ですので、毎日、5分間の日本語で書く作文演習も講義の中に盛り込みました。最終講義に書いた感想文を以下に紹介します。

ナジリ君:「小川先生はいい先生と思う。このやさしさはTDUを入ることを決める。たぶんも一度TDUで会えるだろう。直ちゃんいい人(女性チューター)で、色々な話を教えていた。でも、ちょっとはずかしいがりで無口だ。電気・電子工学はとても面白い。ちょっと難しだけれでもいい小川先生がいるので心配ことがない。

 以上の記述でアンダーラインを引いたおかしな表現の文章があり違和感を感じますが、意味は理解できます。

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電気・電子工学概論を聴講した28名の学生

熱心に聴講する学生と質問に応えるチューター

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質問に応えるチューター

3.受講学生について

一般にマレーシア人はシャイで、日本語を使い人前で質問することは不得意です。計算問題はよく出来ますが、記述式問題となると表現不足で苦手です。そのために、前述した5分間作文演習を行いました。学生達はマレーシア全国から選ばれ優秀ですので、プライドがあります。人前で叱ることは気をつけるようにと現地教員から注意を受けています。質問があっても、蚊がなくような小さな声、それにまだ日本語が不自由なので意思疎通が悪いところが多々ありました。学生にとって日本語で講義を受けることは最初のうちは大変であったようです。授業中の学生からの質問は皆無でした。チューターは、演習を担当しますのでその時間に多くの質問がありました。その質問内容はチューターを介して教員にフィードバックされることが多くありました。

チューター達は、現地学生と接触する時間が長く、行動を共にすることが多くありました。そのために学生と共に外出することがよくあるので、その時は学生達がマレーシア語の通訳をするので大変便利であったようです。

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実技付き特別講義「けん玉」

4.試験のこと

日本に留学することを目的としている学生達なので、試験に落ちたら大変ということで成績にこだわる学生が多くいました。最終試験は、講義内容全ての中から出題すると伝えてあるので、彼らは必死で勉強しましました。教科書、ノートなどの参照は不可の最終試験では、平均78.1点というすばらしい成績を修めました。

4.マレーシア学生とチューターのこと

教員よりチューターの方が、現地マレーシアをよく知って帰国したことは前述しました。それはホテル住まいの教員と異なり、人里離れたキャンパスの学生寮内にあるゲストルーム(同じ棟)に宿泊し、現地料理を一緒に食べたりする機会が多くあったからです。金曜日には学生と映画を見に行く計画を立てたり、日曜日には学生と一緒にマラッカまで旅行したりしていました。現地学生に日本語の通訳をしてもらったり、道案内、食べ物選定、みやげ物の値段交渉などをしてもらったりしたようです。こうして、現地の様子を教員以上に知ることができたのは、チューター達が現地学生との接触時間が多かったためにマレーシアをよく知って帰国できたと思われます。

5.日本語の授業

 日本に留学するため日本語の学習は必須です。日本語授業を参観したところ、日本の地図を見ながら、教員は「ここは何県?」と指し棒で指し、県の名称を即答させていました。学生は早口で、秋田県、山形県、宮城県などと次々懸命に応えていました。

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日本語学習風景

6.学生寮と質問指導について

現地学生達はキャンパスから徒歩10分ほど離れた学生寮に1部屋3人で生活しています。チューター達は、寮内にあるゲストルームに入居しました。教員はクワラルンプール市内のホテルに宿泊し、キャンパスまで送迎車で通勤しました。ホテルに配達され読み終えた新聞をバンギ・キャンパスのチューター達に翌日届けていました。読み終えた新聞は掃除、風呂場の足拭きタオル、ごみの包み紙用に使い大変便利だったようです。人間は、ハングリーな状態に置かれるといろいろと工夫するもので、若いチューター達にとってよい勉強になったようです。筆者の年齢だと、戦前戦後の物資・食糧不足を経験していますので、いろいろ工夫して生活をしてきました。それが今この年になっても困ったときには、当時の工夫が応用でき役立つことが多くあります。チューターの役目は大変でしたが、こうしたハングリー状態を経験したことで人生におけるものの考え方、生活上の応用の仕方にその苦労が役立つと思います。

7.食事について

 滞在中の食事は、朝はホテル、昼は学生食堂かお弁当です。夜はホテル、その周辺のレストラン、近くのデパート内の食堂です。チューターと打ち合わせがある場合は、大きい屋台食堂に集まり後述の豚焼肉料理のような食事をしました。

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セルフサービスの学生食堂

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屋台で買えるいろいろなお弁当

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キャンパス周辺に出回る屋台、安く弁当が買えます

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屋台で焼きたての豚料理の夕食

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リジェント・ホテルで寛ぐ奥方

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スカーフを身につけると誰だかわかりません

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マレーシアやシンガポールでは突然シャワーに見舞われます

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大きな中央マーケット              クアラルンプールから2時間で行けるマラッカ

マラッカ海峡

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8月は結婚シーズン、街中を歩くと結婚衣装を身につけたカップルに出会います

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フランシスコ・ザビエル像とマラッカで布教の拠点としていたセントポール教会

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お土産屋での買い物はまずは値引き交渉から

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ヤシのみは「薄めたスポーツドリンクのような味」だそうです!

ゴムの木を見学

マレーシアはゴムの主要生産国と知り、現地の人にゴムの木を見学する機会を与えていただきました。ゴムの木をインタネットで調べたところ以下のことがわかりました。「現在の主要生産国は、タイ・インドネシア・マレーシアで、この3カ国の生産量は全体の70%ほどになります。一方どのようなものに使用されているかを調べてみますと、自動車のタイヤ・チューブがそのほとんどを占め、天然ゴムの約80%を使用しています。家庭で使用されている布テープにも糊(粘着材)の部分に天然ゴムが使用されています。ナイフでゴムの木の皮をけずると、牛乳のような白い汁が出てきます。これがゴムの原料で、少しにおいがあり、ベトベトしており、ラテックスと呼ばれています。ラテックスが流れやすくするため、ななめにゴムの木をけずってカップで受けます」

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9.おわりに

 お盆休みの前後二週間、マレーシア、クワラルンプール郊外のYPMバンギカレッジで「電気・電子工学概論」という教科を日本に留学希望のマレーシア学生に4回(2000年〜2003年)講義を行ってきました。24年前に行った出前講義ですので、記憶が乏しくなり投稿できるか心配でした。しかし、2001年に講義した時は、妻同伴でしたので日記を書いていました。その日記と写真が見つかったので、本稿をまとめることができそうだと判断し投稿した次第です。

 マレーシアに同伴した妻眞喜子は、昨年(2023年7月)緑内障で左目を失い、右目は白内障を患い視力0.5で、ほとんどものが見えなくなりました。目が見えないことにより出かける機会は皆無になり、足腰が弱り一人で買い物にも出かけられない状況です。筆者鑛一は4年前に軽い脳梗塞を患い、右足、右手に痺れを感じ長時間の歩行ができなくなりました。さらに悪いことに昨年11月にまた2回目の軽い脳梗塞に襲われ、呂律と嚥下障害を起こしました。このようなわけで夫婦共に歩行困難になり二人で要介護1となり老々介護の幕開けになりました。デイサービスに通うようになり、リハビリ、ストレッチ、脳トレ訓練を行い回復する努力を行っている今日この頃です。

 東京で開催されるロングステイクラブの新年会、新人歓迎会、ランチ会などの会場に行けなくなりました。そのため、楽しい各種催しに参加できなくなり、皆さんとお会いする機会がなくなりました。  先日、妻と今年(2024年)の新年会の様子をまとめた動画をLSCホームページで見たところ、参加者の自己紹介で4人の方の足が痛く歩けなくなったが毎日歩いたお陰で、元気に歩けるようになったとの言葉が印象に残りました。これを聞き、これから積極的に歩く努力をし、皆さんとお会いできるように頑張りたいと願っています

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